前の記事の続きです。
前の記事は、「セカンドサーブの強化が鍵」という趣旨を述べた点で終わっていました。
この記事では具体的な話に移行したいと思います。
1つめは、コース。
おたこさん(@otakoma)が錦織圭実況掲示板の赤黄色さん取得データを集計してくださいまして、フェデラー戦の2ndサーブはフォア側への配球が少ないことが分かりました。
自分もフォアへもっと打ってほしいと思いました。Ad15%、Deuce20%だったようです。自分の印象よりは多いですがスライス回転がかかっていない甘い球になっていたようにも思います。浅いも同意です。ただ、フェデラーに対しては深く入れても攻められていたようにもみえ、深さ以外の選択肢も欲しいなあと pic.twitter.com/16FAfU5c7E
— おたこ (@otakoma) 2018年10月12日
また、ATP公式データ(2011-108のマスターズ1000及びATPファイナルズのデータの集計)によると、右利き選手に対する錦織のサービスのコースは以下のようになっています。
デュースサイド 13.0%
アドサイド 16.6%
私が調べた範囲のトップ選手では、もっともフォアへの比率が高いのがジョコビッチで、以下のようになっています。
デュースサイド 33.2%
アドサイド 30.0%
約1/3のセカンドサーブをフォア側に配球。ここまで散らせば完璧です。
せめて20%を超えて欲しいと思っています。
調べた範囲では、フェデラー、カルロビッチ、ティーム、キリオスが両サイドとも20%以上の割合でフォア側に配球しています。
反対に錦織同様に少ないのがナダル。ただ、彼の場合は配球を読まれるよりも逃げるスライスサーブという自分の武器を最大限活かすための配球でしょう。
いろんな考えが見えてなかなか面白いです。
次に深さ。
錦織の2ndサーブは145km/h前後です。これが150km/hを超えてくるとだんだん打ち込まれにくくなってくるのですが、速度を平均5km/h上げるというのはかなり難しいことだと思います。DFも増えるでしょう。
フェレールはセカンドで勝負するタイプで、平均速度が160km/h前後を超える試合もしばしばでした。その代わりDFは確かツアーでもかなり多い方でした。
これも考え方。
DFが試合当たりで2本増えても、3ポイント以上を稼ぐことができるなら強いセカンドを打つ価値はあります。
どこかに丁度良いポイントがあるはずです。
すこし話しが逸れましたが、錦織の場合は速度をこれ以上あげるより深さを追求することかな、と思います。
プレースメントのデータはほとんどネットに落ちていませんが、ちょうどこの前の楽天オープンでは貴重なデータを公開していました。
これもおたこさんのツイートから、楽天オープン決勝のデータを。
2ndサーブの着地点比較。メドベ2ndでもかなりいいとこ打ってくる。錦織は浅いなあ。プレッシャー感じてるんだろな。 pic.twitter.com/T2P1IGPjmz
— おたこ (@otakoma) 2018年10月7日
左がメドベージェフ。右が錦織の2ndサーブのプレースメントです。
錦織の2ndサーブが浅くなっていることが分かります。
普段はこれよりは少し深いと思いますが、この日は浅く、攻められる要因となっていました。
反対にメドベージェフの2ndは凄まじかったですね。このライン際のプレースメントで170km/h超えていましたから、1stサーブ並みでした。
相手のバック側に入れる2ndサーブは、デュースサイドではセンターになり、リターンの角度は付けづらいものです。しかしアドサイドのバック側へのサーブは、空いているストレートへのリターンをどの選手も狙ってきます。錦織だって、相手の2ndサーブをそのように攻撃することを得点源としています。
錦織もそのようなリターンを打たれることを十分分かっており、対処は上手い方です。しかし不利な状況には変わりありません。
そこでフォア側へのサーブで読みを外すか、深いサーブで差し込ませることが必要になります。
錦織の2ndサーブでの得点率は過去52週間で54.2%、16位につけておりなかなかの数字です。それはおそらくですが、ストロークの強さによって保たれているものでしょう。
2ndサーブの改善によって、1位フェデラー(59.5%)、2位ナダル(58.9%)に近づけば近づくほど、勝利が増えていくことになると思われます。
今、ハモ部長を中心にtwitterでデータを分析していまして、
「1stサーブの確率を上げるより、サーブが入った時のポイント率を上げる方が重要かも?」
という結果が得られつつあります。
よく、「今日は1stサーブが入らなかった。それが敗因。」
という論調で分析してきましたが、それは間違いかもしれません。
いや、正確に言うと、「試合を通じての1stサーブ確率」は、試合の勝敗とあまり関係なさそうです。
ただ、同じ60%であっても、試合を通じて安定して60%くらい入り続けるのと、「100%入ったゲームもあれば30%のゲームもあった」というのでは違うだろう、ということです。
当然、1stサーブが30%しか入らないと、そのゲームは落とす確率が高まります。
また1stサーブが入らなくても、2nd Serve Won %が高ければ、あまり影響はないでしょう。
さらに言えば、1stサーブ確率を上げようとして速度を落とし、その結果 1st Serve Won %をそれ以上に落としてしまったら、確率を犠牲にしてスピードを上げた方が良かった、なんて結論にもなりえます。
このように、1stサーブ確率だけで勝敗を考えることはどうやら危険(正しくない)だということが分かってきました。
引き続き考察を進め、まとまった形で論文として分かりやすい形で発表したいと思います。
2ndサーブでスピンサーブしか打てない場合
アドサイドでバック側が多くなってしまうのは必然でしょうね
フォア側は距離が短くてフォルトの危険が大きいのみならず浅くなるとフォアで叩かれてしまう
スライスサーブの2ndが打てるようになるといいのでしょうが
錦織のフォア引用 返信
大変興味深く、面白く、読ませていただきました。これほど、錦織のサーブについて、深い洞察と分析のレポートを聞いたことも、見たこともありません。論文を期待していますので、よろしくお願いします。
NKF引用 返信
団長さん、待ちに待ったプレビュー続編、ありがとうございます。
データに基づく分析は説得力があります。サーブ一つとっても奥は深いなぁと感じ入りました。
ファーストの確率を上げるよりも、ファーストとセカンド通してのポイント獲得率を上げる方が大事、そのためには深さとプレイスメントを改善していく必要がある、とのご指摘に深く納得。
これからはそういう視点で錦織君のサーブに注目して観戦しようと思います。
今まで錦織君はサーブが弱点の一つだと言われてきたし、実際、錦織対策として、セカンドサーブ狙いが多々見られました。それを逆手にとって、ただ入れにいくだけでない戦略を持ったセカンド(勿論ファーストも)を打てれば、新たな武器になるかもしれませんね。
上海のフェデラー戦では、質の良いサーブとちょっとした運があれば勝てた試合だったと、誰もが思ったのでは?本人もそう感じたのでは?と、なんとなく想像しているんです。
怪我から復帰しフォームを変えたばかりで、言うは容易く行なうは難し(練習ではできても実戦を重ねないと身に付かないものらしいし…)ではありますが、スピードはなくても質の良い錦織君特有の戦略的(または頭脳的)サーブが開発されるのを、楽しみに待ちたいと思います。
ウクレリアン引用 返信
先程の訂正です。プレビューでなく、レビュー続編の間違いです。それから、サーブは、セカンドだけでなく、ファーストも狙って強打されることがあったように思います。
ウクレリアン引用 返信
団長さん、2ndサーブの考察お待ちしていました。
これはなかなか奥が深いぞ…と覚悟しました。
楽天での2ndサーブのメドベージェフ選手との比較は結構厳しい内容ですね(>_<)
着地点の違いは素人目にも明らかで、その上速度も速いとなると錦織選手がポイント
を取れなかったことが頷けます(^◇^;) この日のメドベージェフ選手は素晴らしかった
という印象はデータでもしっかり出てますね。
でも、他の選手との勝った試合ではこれほどではなく、2ndサーブもえっ?と思うよう
ような深いところに行っていることもありましたし、1stサーブ が入らなくても2ndサ
ーブでポイントを取れていることもよくあり、1stサーブ 入らなくてもいいか…2ndで
どうにかなる…などと思ったこともあります(笑) この違いは相手のサーブの出来とか、
ストローク戦での優位性とかが影響するんでしょうか?
コースと深さがうまく機能している時としていない時の違いは何だろうなあ??
ただ1stサーブ の確率が上がればいいという話ではないことがわかりました。
錦織選手もきっとわかっていてその努力をしているんでしょうねえd( ̄  ̄)
でも練習と試合ではまだ異なり、いつでも、相手が誰でもコントロールできるところ
まではいっていないということかな。まあ、でもそれは錦織選手の伸び代部分と思う
と楽しみなことでもある( ̄▽ ̄)
ウィーンでのサーブは見所がはっきりしたので、目を皿のようにして注目するぞ!!
ティアフォー選手も強力サーブ!
どのようなプレーで錦織選手が対処していくのかワクワクします╰(*´︶`*)╯♡
あけび引用 返信
ウィーン、明日月曜日のOOPに錦織選手の名前はありません。
ROM引用 返信
団長様。非常に重要と思いましたので、セカンドサーブに関する考察の部分について【まとめ(備忘録)】を勝手に作らせていただきます。小生の理解では正確でない、という点がありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。(もしくは、「ありがちな誤解」の例として、今後の記事を書く上での参考にしていただければ幸いです。)
錦織選手のセカンドサーブについて。
(1)平均速度は145km/h前後。これを150km/hくらいまで上げられれば理想だが、実現は難しそうである。(無理に速度を上げようとすると確率が下がる危険性あり。)
(2)フォア側への配球率は、デュースサイド13.0%、アドサイド16.6%。これを20%程度まで上げるべきではないか。(フォアへの配球を増やすべき理由は、下を参照。)
(3)深さ。利用可能なデータが少ないため論じにくいが、(セカンドを狙われた印象が強い)楽天メドベージェフ戦では、メドベージェフとの対比で錦織のセカンドの浅さが目立っていた。
(4)セカンドサーブでの得点率は54.2%(過去52週)。全体で12位と悪くないが、これはストローク戦の強さで保っているもの(ストロークに依存する部分が大きい)だろう。
セカンドサーブのフォア側への配球を増やすべき理由。
(1)バック側への配球は、デュースサイドでは(仮に読まれたとしても)相手のリターンの角度を制約する効果があるが、アドサイドでは(読まれてしまえば)空いているストレートへのリターンを狙われ易い。これを回避するには、フォア側への配球で読みを外すか、深いセカンドサーブを打って差し込ませるか、しかない。
(2)上位選手でフォアへの配球率が特に高い(つまりセカンドサーブのコースを最も散らしている)のはジョコビッチで、両サイドとも30%程度。他の上位選手では、フェデラー、カルロビッチ、ティーム、キリオスが両サイドともに20%前後を相手のフォア側に配球。錦織選手同様にフォアへの配球率が低いのはナダルだが、ナダル(左利き)の場合はバックへの配球により逃げるスライスサーブを有効に利用できるので、錦織と同列に論じることはできない。
最後に1つだけ質問です。この記事を書く際、またそのためにデータ分析を行う際、対戦相手が右利きであることを前提としていたと理解して大丈夫でしょうか?(例えば、サーブデータを扱う際、「アドサイドでのセンターへの配球率」を「相手選手のバック側への配球率」と読み替えていた(当然それでデータ上は問題がないというご判断の上で)と理解しているのですが、あっておりますでしょうか?)
禮部長の投稿も楽しみにしております。
白髪30%引用 返信
白髪30%さん,
はい、すべて「対右利き選手」のデータを使っています。
そのデータと「対左利き選手」のデータとの比較をすると、実はもっと面白いことが分かるんですよ・・・
と、言うことは分かっているのですが、データ分析系の記事はとにかく時間を要します。
少し間違えただけで異なる考察になってしまう可能性もありますから・・・。
まあ、個人のブログ記事なので、少なくとも使用するデータの数字さえ間違っていなければ、
あとは「〜と解釈できるだろうか?」的な論調であれば、皆で議論できるのでなんとかなりますが。
netdash引用 返信
セカンドサーブの強化賛成です。でも、ファンの心理としてはやはりファーストサーブの安定性も欲しい笑。ファーストの確率が悪くなるとどうしてもセカンドは「とにかく入れる」状態になり、どんどん似たようなコースに集まり結果としてカウンター食らってブレークされる…というのが楽天の決勝戦の私の印象でした。上海は流し見しか出来ていないのでなんとも言えませんが、サーブがそれほど調子良くなくてもストロークの良さでロジャーさまとの対戦に挑んでいたようなイメージです。
確かに今後さらに上を目指すにはたとえファースト悪くてもセカンドサーブで3球目でポイント取るために有効なサーブのコースと球種が必要だと思います。どんなに見応えがあってもロングラリーで体力すり減らすことは極力避けて欲しいです。
しかしあらためて…、楽天のデータすごいですね。全ての大会で取り入れて欲しいです。
今日からウィーンが始まります。目指せロンドン!楽しいロンドン!愉快なロンドン!
delposhockより立ち直りつつあるROMより笑。
ROM引用 返信
フェデラーなんかは昔から、1番大切なショットはセカンドサーブと常々言ってましたよね。
高い確率でポイントが取れるセカンドを持ってるからこそ、ファーストサーブを楽に打つことが出来ると解釈しておりました。的外れかもしれませんが、テニスの試合短縮案の中にセカンドサーブの廃止(サーブは1本のみ)があったと思うのですが、私は結構賛成派。バレーも卓球もバドミントンもサーブは1本だけでラリー中心の球技ルールの中、何でテニスだけ?とずっと思ってました。
全然関係ない話ですみませんが。
ウィーンはガスケ欠場でQFティエムの可能性高くなりましたね。個人的には昨年ファイナリストのツォンガに頑張ってもらいたいですが。この大会はSF以上でないとポイント的に全く意味がないので、なんとか頑張って。
ティアフォーカチャノフorノバクは、インドアハードの錦織にとってまだ相手にならないでしょうという算段です(これ外れたら落ち込むなー)。
よよよ引用 返信
ウィーン500
錦織選手の1Rは、
日本時間10/23日のPM8:00開始の第1試合です。
下団引用 返信
下団さん、明日の試合時間のお知らせありがとうございます😊
楽しみだなあ🧡いい準備ができてるといいなあ( ´ ▽ ` )
あけび引用 返信
よよよさんの興味深いセカンドサーブ廃止論について、なぜ、テニスだけサーブは2本か?って、考えると面白いですよね。
①卓球やバレーは確かコート内ならどこに入れてもOK(バドミントンは限定された範囲内でテニスとほぼ同様)であること。
②卓球、バレー、バドミントンは室内でサーフェスもほぼ一定していること。テニスは室内と屋外があり、屋外の場合は風雨、湿度、温度などに左右される。また、サーフェスは3種類あり、同じサーフェスでも会場によってコンディションが違う。
以上の点から、テニスの試合を例えば全て室内にし、サーフェスをほぼ一定にし、コートのどこにサーブを入れてもいいというルールに大胆にも変更した場合、どうなるのか?というのは、想像するだけでも面白いし、楽しいです。
①試合はより面白くなるのか?
②ビッグサーバーに有利になるのか、それとも技巧派に有利になるのか?
どうなんでしょうね?ま、今のところ、サーブのルールが変わるとは思えませんが、それにしても、テニスほど様々な条件を総合的に考慮してプレーしなければならない球技はないのでは?と、改めて思う次第です。頭脳戦の占める割合が最も高い球技だと言っていいのでは?
今頃ここにこんなたわごと書いてもどなたも読まないだろうなぁと思いつつ、投稿します。
ウクレリアン引用 返信
netdashさん,
団長様、返事が非常に遅れまして、失礼しました。
出張用の書類のデータが壊れるというハプニングがありまして…。
ところで、対右利き選手のデータのみ抽出して利用していらっしゃったとのこと。私はその点は誤解しておりましたが、お返事をいただいいて納得いたしました。ありがとうございました。
白髪30%引用 返信