「試合勘のなさ」が敗戦の主要因(2018ニューポートビーチCH 1回戦レビュー)

2018 Newport Beach Challenger
1st Round
Dennis Novikov[Q] def. Kei Nishikori[1, WC] 6-3,3-6,6-4

復帰戦は残念ながらフルセットでの敗戦となりました。
内容的にも、動き、技術、試合勘どれを取っても復帰前にはほど遠いものでした。

しかし、それらは十分予想できたものでもありました。

錦織は休み明けで良い結果を出してきましたが、それは主に身体のリフレッシュによるものだと思われます。
「試合勘」という言葉を度々口に出しているように、本来は試合をこなしながら調子を上げていきたいタイプです。
そのことは、これまでの参戦傾向を見れば分かります。

前哨戦で良い結果を出し、調子を上げて本番(グランドスラム)に臨みたい、しかし前哨戦で勝ちすぎると本番での故障や疲労が心配・・・
故障がちであること、エネルギーを要するプレースタイルが、そういったジレンマを生んできました。
錦織圭は、いい結果を出す上で「試合勘」が特に重要となる選手なのです。

約1年に及んだ肘の故障から復帰した2010年の復帰戦、デルレイビーチでもフルセットでの敗戦でした。
ベンジャミン・ベッカーに3-6,6-1,0-6で敗戦。
ファーストセットは試合勘が戻らず取られ、セカンドセットで修正したものの、ファイナルセットはそれが持続せず。今回と同じ傾向です。
セカンドセットを取ったのは、工夫によるものであり、ポイントパターンを確立できていないとこういう結果になるのだと思われます。
おそらく、試合勘がある状態であれば、「こうきたらこうやる」というイメージを複数持つことができ、勝利できたのではないかと思われます。

この状態が何ヶ月も続いたら問題ですが、この1試合だけでダメ出しをする意味は全くありませんし、手首に問題なく最後までプレー出来たというポジティブ要素に注目すべきでしょう。

手首は100%痛みが取れた状態ではないようですが、プレーに支障はなかったはず。
そもそも、痛みは100%取れるものか?と思いますし、仮に取れるとしても、それを待つのはもったいないと思います。

チャンは「100%にならなければ復帰しない」と言いましたが、それはマインドの話であり、「100%、元の実力にならないと復帰しない」ということではないと思います。
プレーに支障がない状態まで回復し、必要なトレーニングと練習ができたから復帰したのだと思います。
それでも、試合勘のなさで思うようにプレー出来ず、このような結果になることもあります。
私は全く問題ないと思います。

テニスのプレーというのは非常に繊細なものです。
一瞬の判断の連続であり、確率との戦いです。
自信のあるショットが入らなければ、次にそのショットを打つ時に不安になります(誰でも多少はなります)。

例えば、練習では100本打って3本しかミスしないショットがあったとして、試合でそのミスが出たとき、

「100本中3本のうち、1本が出ただけだ」

と思うか、

「何か自分の打ち方がおかしいのではないのか」

と思うのでは、大きく違います。
前者が試合勘がある状態、後者が試合勘のない状態です。

後者の考えに陥ってしまうと、100本中3本のはずだったミスが、100本中10本や100本中20本になってしまうことがあります。

試合と練習は大きく違います。
「試合は練習のように、練習は試合のように」という言葉がありますが、本質でありながらこれほど実行が難しい言葉もないでしょう。
同じようにプレーしているつもりでも、どこか違うものです。
そのギャップを小さくしてくれるものが、「試合勘」という漠然としたものです。

こういった曖昧なものを神聖化することは好きではありませんが、実際にそうとしか言いようもないものが存在することも事実です。
ただ、「試合勘」のひと言で済ませず、必要な対策は取っておくべきでしょうね。
私はイメージトレーニングや試合前のメンタル調整(戦術や方針の確認、心構えの整理など)が重要だと考えています。

試合勘の無い状態であっても、小さい成功体験を積むことで試合中に自信を芽生えさせることは十分可能だと思います。
その日の自分の調子の傾向をつかむことが大事だと思います。

例えば、サーブのコース。「今日はワイドが入る」と思えば、読まれてでもワイドを多用する。
バックのダウンザラインが入りそうであればそこに持って行くまでの組み立てを考える。
フォアの当たりが悪ければ、コースを狙うことはある程度あきらめ、ミスをしないことを重視する、など。

理想は全てのショットを全てのコースにコントロールし、ショットの選択にバリエーションを持たせて試合を支配することですが、試合勘が無い状態ではまずは自分との戦いが優先になってしまうのは致し方ないところでしょう。

試合勘のなさは動きの悪さやショットの甘さにも繋がっていました。プロのレベルでは、「自動的に」動かなければなりません。
1本のショットを打つ度にいちいち、打ち方を調整したり、迷ったりしているようでは勝利はおぼつかなく、今回の錦織はそのような状態でした。
37ポンドに落としたテンションの影響もあったことでしょう。

技術的にも調整が必要だったという意味で、チャレンジャーへの参戦は私はいい選択だと思っています。
相手に隙がなければ、そういった調整を自由にさせてくれませんから。
今回の相手ノビコフはビッグサーバーであり、ストロークでも早めの仕掛けで、ミスもありウィナーもありのテニスをしてきましたので、調整のやりにくい相手だったのはアンラッキーでした。

サーブのコースが読めず、リターンがなかなか上手く返らなかったことが痛かったです。サーブとリターンは最もタイミング調整がシビアなショットであり、試合勘が最も影響すると思われます。

ノビコフは、セカンドセットで増えたミスをファイナルで減らしてきたり、錦織がリードしている場面でも自分のサービスゲームで集中し、3ゲーム連続でラブゲームキープをするなど、ミスが多いながらも上手く試合をまとめてきました。パワフルなサーブとフォアは大きな武器で、今後の活躍が期待される選手の1人でしょう。

とにかく、最後までプレー出来たことがこの試合の大きな収穫であり、試合内容については今後、段階的に上げて行けばよいと思います。

元々、2月12日からのニューヨークオープンが復帰ターゲットとして本命でしたので、その前のチャレンジャー参戦はそもそもが「プラスα」です。
「早めに試合に出れる状態になったのに、試合がないのはもったいないから出ることにした」わけですから、良いことだと思います。

すぐにダラスCHも始まりますし、これから調子を上げて行く錦織が見られることでしょう。楽しみ以外の何があるでしょうか。

15 件のコメント

  • 団長さま
    復帰戦第1弾のレビュー、本当にありがとうございます!
    団長さまの見解を知りたかったー😆
    素人にも分かりやすく、今回のレビューも一つ一つ頷きながら読ませて頂きました。
    ダラスはまさかのノビコフ選手リベンジマッチ。
    この一週間で何かが変わるのか変わらないのか、私としては手首の心配<プレーの質に視点をちょっとだけ移して観戦できることに、ドキドキしながらも幸せを感じています。

      引用  返信

  • 前の書き込みで、これから課題をクリアしていく錦織選手の姿をリアルタイムで
    見守ることができることが本当に楽しみと書きました。
    この漠然とした根拠のない私の思いに対して、この団長のレビューは目の覚める
    ような鮮やかさで根拠を示してくれました\(^o^)/

    「楽しみ以外のなにがあるでしょうか」
    最後のこの言葉! なんて力強い言葉でしょう!
    おっしゃる通りです(^ν^)
    さすが、団長さんです。ありがとうございます。

      引用  返信

  • 団長さん、お忙しいなか懇切丁寧な試合レビュー感謝です。2010年の復帰のときもフルセット敗戦だったのですね。今回の状況深く納得いたしました。ひとつ私の予想としては、「次は今回の結果を踏まえて、テンションを通常のレベルに戻して試合をする」です。試合勘の戻りとテンションの戻りが、同じ相手にどう作用するか、結果を見るのが楽しみです。

      引用  返信

  • 「楽しみ以外の何があるでしょうか」
    はいっ!その通り!!!
    団長のレビューの長さにも、錦織選手への
    熱い応援の気持ちが汲み取れて、じんわり心に
    きてます。
    錦織選手の復活の過程を楽しんで見守りたいです。
    それ以外の気持ちは今の所僕にはありません。

      引用  返信

  • ダラス1回戦もまたノビコフとです。
    運命なのでしょうか(*´∀`*)

    全豪男子決勝、結果は書きませんが内容がすごいです。

      引用  返信

  • 団長さまの総括は常にファンの心を落ち着かせてくれる精神安定剤の様ですね。カウンセラーになったら最高の人材ではないでしょうか?(笑)ただただ有難くて涙がでます。

    ところでダラス戦のオンデマンド放映開始は火曜の午前10時すぎ位でいいのでしょうか?因縁のノビコフ戦ですが、流石2連敗はないかとー

      引用  返信

  • 団長さまの総括は常にファンの心を落ち着かせてくれる精神安定剤の様ですね。カウンセラーになったら最高の人材ではないでしょうか?(笑)ただただ有難くて涙がでます。

    ところでダラス戦のオンデマンド配信開始は火曜の午前10時すぎ位でいいのでしょうか?因縁のノビコフ戦ですが、流石2連敗はないかとー

      引用  返信

  • 団長の「楽しみ以外の何があるでしょうか。」という締めくくり、じーんと来ました。
    そうですね。
    私もとても楽しみになって来ました。

      引用  返信

  • ダラスCHのOOP出ましたね。
    1R錦織選手対ノビコフ選手
    現地29日10am開始
    Hamilton Family Stadium 第4試合 (not before 4pm)

    伊藤竜馬選手(対マクドナルド選手)の試合も同じ日の第2試合に入っています(not before 12noon)

    応援あるのみです。

      引用  返信

  • 昨晩のGS決勝戦はチリッチへの不利な判定が多く、運営の意図を感じました
    錦織がまた同じビックサーバーと戦うのは運営の意図が働いてるのでしょうか

      引用  返信

  • ワン流さん,

    2週連続ビッグサーバーはやだなー、という感じはありますが、抽選は公正に行われていると思いますよ!
    運営の意図をぼやきたくなるのはノビコフの方かもしれません笑。

      引用  返信

  • 時差15時間ですので日本時間だと30日午前7時以降です。
    朝の一番忙しい時間帯ですね。私はチラ見になりそうです。

      引用  返信

  • 錦織圭のあの身体とプレースタイルでむしろ、ここまでトップの成績を維持してこれたなと僕は思います
    あとは、この充電期間をいかにうまくつかってフェデラーのように長くトップで現役を続けられるようにサーブやフォアの改善にとりくんでるんでしょうね
    それって、時間かかりますよね
    “練習は試合のように、試合は練習のように”久しぶりに聞きました
    現役の学生の時はよく聞かされ、息子の現役の時もよく言ってたな
    伊藤選手も練習の時の実力が出せていればなと思うのは僕だけではないと思います
    杉田選手の上をいけたかもですね、いや、まだわからないか

      引用  返信

  • さすが、錦織選手のデビュー当時から、良い時も悪い時も見守って来られた団長さんの記事ですね。いつも読んだ後、元気になれます。
    仰るように、気にする事が多すぎて集中できる状態ではなかった、そんな感じでした。
    2010年の復帰戦(対ベンジャミン・ベッカー選手)との比較も、同じ傾向だったとはなかなか興味深かったです。

    今が底なら、あとは上昇しかありません。私も楽しみです。

      引用  返信

  • 「試合感」これは本当に大事ですよね。次元が違いすぎますが、学生時代は毎日テニスをするのが当たり前で、試験勉強で1週間空いただけで、球の乗りがまったく違った感触だったのを覚えています。それを戻すのに1日はかかりました。
    社会人になり月3テニスになった今では、たとえ1ヶ月空いてもなんら違和感がありません。嬉しいやら悲しいやら。やってようが、休もうが感覚そのものが消失したのでしょうね・・・。

      引用  返信

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

    ABOUTこの記事をかいた人

     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。