【長文です】2018楽天ジャパンオープン決勝 vs. メドベージェフ レビュー

2018 Tokyo (ATP 500)
Final
Daniil Medvedev[Q] def. Kei Nishikori[3], 6-2,6-4

※「メドベージェフ」がかなり優勢なのでメドベージェフ表記に変えます。

期待が高かった分、結果は残念でしたが、準決勝までの戦い方を見るに、大きく前進したと思います。
あと1歩、決勝のパフォーマンスだけなのですが、その前にメドベージェフのプレーに全く隙が無かったことが先に来ると思います。
この結果になった原因はメドベージェフの良いプレーが7割、錦織のまずいプレーが3割という印象を持っています。

調子の上がらない錦織に対し、メドベージェフはサーブ、ストロークとも完璧でした。
打っても打っても鋭く返してくる様は、まるでジョコビッチのようでした。
低いフラットなストロークに加え、速いサーフェス。しかもことごとく深い。

少しでもメドベージェフが隙を見せれば、反撃できる体勢は2セットかけて整えました。
1stセットははっきり言って冴えませんでしたが、2ndセットではしっかりと錦織も変えてきました。

まず、ストロークのペースを落とし、スピン系の深い球とスライスを混ぜて揺さぶりをかけました。
これにもメドベージェフはまったく動じず。
5球、10球と続けても甘い球が全然来ないのです。
そして最後は押し切られる。

サーブも、1stセット58%から2ndセットは70%まで上げてきました。
1-2のサービスゲームではBPを握られる大ピンチを迎えましたが、ものすごい気合いのキープを見せてくれました。
「ここを落としたら本当にまずい」ということがよく分かっていたプレーでした。

リターンゲームはほぼ、ノーチャンスでした
リターンゲーム43ポイントのうち、僅か5ポイントのみしか取れず、しかもBPのあった第1ゲームに4ポイントが集中していました。つまり2ndセットでは1ポイントのみしか取れませんでした。
ラブゲームが7回。
これほどまでにリターンゲームでポイントが取れなかったことはあまり記憶にありません。

これは錦織のサービスゲームに大きな、大きなプレッシャーをかけます。
ダブルフォルトをしてしまったのはそのせいでしょう。この日は2ndサーブが浅く、サーブの優位がない状態でした。
となるとあのフラットストロークに苦しめられることが明白なので、

これを、メンタルの一言で片付けることは短絡的過ぎると思います。
常々言っていますが、メンタルは単独で結果を左右しません。
フィジカルとテクニックとセットで考えないといけません。

では強いメンタルを持って、強気で打ったらどうなるか? その結果、ミスをしたら?
「焦りが」「メンタルが」と言われてしまうことでしょう。

では、確実なプレーを選択して、粘り強くラリーをし、その結果決められたら?
今度は「消極的」と言われてしまうことでしょう。

ナダルやジョコビッチはもちろん、メンタルが強い選手ですが、例えばナダルはピンチになれば圧倒的なフィジカルを用いて全力で走り、スピンをかけ、その結果として安定性、守備力と同時に相手に対するプレッシャーをかけることができます。
ジョコビッチは、相手が打ってくれば打ってくるほど嬉しいタイプです。激しくラリーする中でどんどんリズムを作り、精密なコントロール力で最後は逆転します。

そんな彼らでも、200km/hサーブがコーナーに飛んで来たらサービスエースを取られますし、常にコート上の全てのエリアをカバーできているわけではないです。
そこに打たせない、コースを限定させるテクニックとフィジカルの面で、錦織よりも長けていると思います。

錦織のフィジカルは残念ながらトップクラスではありません。
敏捷性はトップクラスですが、強い球を打たれた時の球際は体幹の強さがモノをいいます。
メンタルだけでどうにかなる問題ではないでしょう。

と、書いてきまして、錦織を擁護しているように見えるかもしれませんが、逆にこれは冷徹な宣言なのです。
つまり総合的なテニスの実力として、錦織はまだまだだと言っているに等しい。
昨日のメドベージェフのような圧倒的テニスが迫ってきたとき、受け止めきれる実力が、まだ備わっていないということです。

ただ、昨日のような展開でも何回も錦織は逆転してきました。
昨日は、最後のブレイクされたゲームがミス4連発であり、我慢し切れなかった。それによって全体が錦織が力なく負けた印象になってしまいましたが、
2ndセット4−4の最初のポイント、これを取っていたら流れが変わっていた可能性がありました。

逆を考えてみれば分かりますが、自分が圧倒的にサービスキープをしているにも関わらず、たった1回のチャンスを活かされてブレイク先行されてしまう。
そのまま、セットを取られてしまう。

これって、ショックですよね。

錦織がまさにメスの準決勝で、バッヒンガーにこれをやられました。

それを今度は錦織がやるチャンスだったのです。
錦織は「このゲームこそが勝負所」だと思っていたと思います。
意を決して積極的に攻め、迷わず中に入ってバックのDTLを放ちました。

完璧にボールを捕らえたように見えましたが、結果は僅かにサイドアウト。非情なものです。

「このショットが入っていたら、勝っていた」とは言いません。入っていても、このゲームを取っていても、2ndセットと取っていても、メドベージェフが勝ったかもしれません。
そのくらいメドベージェフのテニスは強かった。BIG4レベルだったと言っていいと思います。

それでも、流れをガラッと変える可能性を秘めたポイントでした。
こういう場面でレベルを上げ、「どうやって勝ったの?」と言いたくなってしまうような逆転劇を、錦織は何十試合も演じてきました。

天晴れなのはその後のメドベージェフ。
このゲームは確か、1stが入らなかったと思いますが、2ndサーブは常に170km/h前後、しかもコーナー。
錦織は前のめりに勝負を仕掛けていましたので、メドベージェフが弱気になれば一気にペースを掴めたところを、逆に強気のプレー。

これにはさすがの錦織も勝つイメージを失ってしまったのではないでしょうか。
それが最後のゲームのミスに繋がりました。

フォアのミスは、「強い球を打たなければ」という力みだったように見えました。
途中、繋いでみた場面でも全くペースを変えられませんでしたので、選択としては間違っていないと思いますが、先行され後がない状況では、コースと威力を両立させることができなかった。

あるいは、開き直って錦織もフラット気味の強いショットを打てば上手くいったかもしれませんが、地元の大きな期待の中、久しぶりの優勝がかかった試合で、完璧なプレーを披露する相手に対し、
通用するかどうか分からない、その日に打ったことのないショットを使うことは難しかったと思います。

それでもやらなければならない、チャンピオンになるためには打たなければならない、これも真実です。
ですので錦織にはまだ足らないところがあります。そこは認めなければなりません。
ただ、当時の状況を選手の気持ちになって考えると、簡単に「もっとなんとかできた」とは私には言えません。

ただ、勝つチャンスはないわけではなかった。繰り返しますが、本当に4−4の最初のポイントは、試合をひっくり返す可能性を秘めたポイントでしたよ。
あんな試合であっても、錦織が勝っていた世界があり得たと思います。錦織圭はそういうすごい選手です。
それをさせなかったのはとにかく、最後まで全く隙を見せなかったメドベージェフ。本当に素晴らしいプレーでした。

試合前に心配していた、フラットなショットへの対応と、ミスが先行することによる流れの悪さに加え、メドベージェフの隙のないプレーで挽回のチャンスを掴めなかったこと、

それに加え、今大会ずっと好調だったことが却ってそのギャップに苦しむことになり、ピンチを切り抜けた感覚の不足により最後のゲームは耐えきれなかった、と考察します。

試合の分析としては以上になりますが、準決勝まで4試合、サーブ、フォア、バック、ネットプレーと全てを揃えて良い内容で勝ち上がったことは間違いなく前進です。

しかも体に大きな不安がなかった。
体力的にも、2試合目、3試合目の方がきつくて決勝前は体の重さはなかったそうです。

決勝8連敗は、確かに気になります。
気になりますが、全ての敗戦で相手が良いプレーをしています。
つまり錦織も、それ以上に良いプレーをしなければならず、そこが課題です。
この課題はずっと前から自身としても、ファンとしても認識しているものです。
上位ラウンドに行けばいくほど、良いプレーをしなければチャンピオンにはなれません。
この課題のために、昨年まではコンスタントに成績を残せても、なかなか納得いく敗戦を得られませんでした。

しかし復帰イヤーの今年はどうでしょう?
むしろ、早期敗退が目立ちながらも爆発力を発揮して、優勝こそはないものの上位進出が目立ちます。
(バブリンカ化とか言われてますよね)

グランドスラムで4回戦、ベスト8、ベスト4と3つ結果を揃え、しかも尻上がり。苦手のウィンブルドンでもキャリア最高の結果。
勝ち上がりの内容も、復帰前よりむしろ強い勝ち上がり。
気を抜く場面の減少、細かい工夫の積み重ねなど、意欲はこれまでの年で最高ではないでしょうか?

確かに優勝はそろそろして欲しい。でも、あとはそれだけですよね。本当にそれだけ。

優勝するだけだったらそんなに難しくないと思います。毎回毎回、相手が素晴らしいプレーをするわけではない。

「ズベレフがGSで勝てない」と並んで、「そのうち解消されるでしょ」としか思いません。

こんなにポイントが離された状況で、ファイナルズ出場を諦めず、メスまで出て貪欲にポイントを求めている。
勝とうが負けようが、もう応援するしかないですよね。

どなたかのコメントかツイッターで見かけて良いなと思ったのですが(すいません、パッと検索できません)、

かっこ良い部分もかっこ悪い部分も全てさらけ出して、夢に向かって努力する姿を応援したいです。

錦織はもう今朝からトレーニングを再開し、その後すぐ、次の戦いの場である上海へと向かいましたよ。

それでは上海のプレビューでまたお会いしましょう(この記事の締め方気に入った)。

55 件のコメント

  • ティエム、チリッチ初戦敗退してイズナー欠場。これで、錦織選手がSF以上進出となれば、Londonへの風が吹きますよ。
    そのためにも、初戦を必勝でお願いします。

      引用  返信

  • ROMさん、やっぱりそう思われましたか。
    サーブのエンジンがかかるのが遅い場合はレシーブを選ぶとか?
    いずれにしても今日の2回戦がどうなるか、しっかり見届けたいと思います。

      引用  返信

  • ステファンふぁんさん、うーなーぎー、うーいーろう、いいじゃないですか!
    私は『うー』で始まる物探す時に、『あ』から順に、うーあ、うーい、って言葉に出してみたんですが、うーし(牛)しか浮かびませんでした

    リリマリさんのウーロン茶!それがあったか!、ほんと健康的だし、手軽ですね

    ROMさん、うーーーっ!マーボー!は、楽しすぎます!応援する時の掛け声にも使おうと思いますが、アクションはいりそう!

    私は、宮城県産の『うーめん』いいなと思って、デパートに電話かけまくりましたが、どこにもなかったので、くぃっとひねりいれました

    連戦につぐ連戦の錦織選手に、静かな闘志と、しぶとさを感じます
    体調は万全ではないとのことですが、一戦一戦頑張ってほしいです

      引用  返信

  • micchi師匠
    なんと我が家には先日お土産で頂いた「温麺」が…(^◇^;)。お昼ご飯にツルツルっと軽く頂いておきます。
    ウーいろうとウーろん茶はティータイム、麻婆豆腐は夕飯に!!

      引用  返信

  • 第一セットのBP
    セカンドのリターンミスも痛かったですね。
    サーブが良かったと言えるかもしれませんが

    ずっと声を出して応援してたのは団長さんですか?

      引用  返信

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。