錦織劇場Type2。正面突破でハチャノフとの力比べに勝利(2025香港2回戦)

2025 Hong Kong (ATP250)
2nd Round
Kei Nishikori[WC] def. Karen Khachanov[3], 4-6,6-3,7-5

復帰後最大の勝利かもしれません。第3シード・トップ20からの勝利。さらにこれで錦織圭はトップ100入り確定。
この事実だけでもすごいし、スコアもザ・錦織とも言うべき1stセットダウン、2ndセットもブレイクダウンからの錦織劇場での勝利も凄いのですが、私が本日の勝利で一番すごいと思ったのはその内容、勝ち方ですね。

錦織劇場といえば押されて押されて、苦しんで苦しんで、その中でわずかな隙を見つけては時には繋ぎ、時にはドロップなども駆使して工夫して逆転していくのを見るのが醍醐味ではありますが、今回の錦織劇場は「フォア強行突破」でした。

まずは最初のゲームにフォアのミスが3本出て試合の入り方に失敗すると、ブレイクバックして迎えた4-4からも4本のフォアミス。
2ndセット最初のゲームでもフォアミス2本で0-30となりそのまま被ブレイク。
このように3つの被ブレイクには全てフォアが絡んでいました。

ただ全体の調子は悪くなくウィナーも取れていましたし、ハチャノフの攻めに対しやや受け身になっていたように見えていたので、逆により強打を追求したらハチャノフの攻めを封じることができるのではないかと思っていたところ、第3ゲームの最初のポイントからいきなりスイングが鋭くなりどんどん攻めていけるようになりました。

このように簡単にテニスを切り替えることができるのが錦織の飛び抜けた才能なのですが、それにしても毎回驚かされます。
サーブも強気に転換し、このセットはハチャノフとの真っ向勝負のしばき合いとなっていきました。
ほとんどミスというミスがなかったハチャノフも、この錦織のプレースタイル変更に対し力みが見られるようになり、少しずつミスが増えていきました。

ハチャノフに勝つパターンはいつもこんな感じで、パワーに押し切られるパターンも十分想定されるのですが、効果的なプレースタイルを見つけたらそれを離さない錦織の前に我慢し切れなくなることも多く、対戦成績は錦織の方が優位となっています。
チリッチなどに対してもそうですが、大型でパワーがあるけど一本調子になることもある選手に対し、錦織は答えを持っています。
ボールの力は互角でも錦織の方が意外なコースや変化をつけることができるので、相手にミスをさせることができるのです。

ファイナルセットはプレーが落ちない錦織と、サーブ力を持ち直したハチャノフの互角の戦いが5-5まで続きますが、互角なスコアの中でもセット中盤以降、錦織の方が内容が良かったように思います。4-5の最初のポイントのスマッシュミスには肝を冷やしましたが・・・。

リターンの凡ミスがないのでハチャノフに相当なプレッシャーがかかっていたと思いますし、ポイントを取った時の表情を見ても気迫がこもっており、精神戦でも優位に立っていました。

この土壇場でのメンタルの差は、5-5でのハチャノフの弱気な2ndサーブに表れていました。
ここをブレイクすると、対照的に錦織は最終盤に来てこの日最高のサーブ(188kmh)でエースを取ると、最後はフォアを豪快に叩き込み試合を決めました。

鼻血試合にするかどうかは迷いました。
落ち目の選手であればこれは文句なしの鼻血試合です。あるいは復帰直後であれば鼻血試合にしていたでしょう。
しかし昨年後半のテニスを見ると、もう錦織はこのくらいやれることは分かっていました。
あとはそれが1年を通じて出るかどうかという段階ですし、まだまだ2025年始まったばかりでこんな試合はたくさんあるのでは!という期待を込めて、あえて鼻血試合にはしないことにしました。

35歳といえば普通はもう落ち目です。しかし錦織は落ち目どころかどんどん全盛期に戻ってきていますし、なんだかずっと試合に出続けているし、チャンの言う通り「この調子が続くなら50位は楽勝」だと思います。
気がかりだった体力もこの試合を見る限り強化してきていますし、サーブも足を引き寄せるフォームに戻して速度アップ。今、あまり不安要素がありません。本当に、あとはどれだけこの調子を持続できるかというフェーズに入っています。驚異の、若い35歳です。

とまあ、褒めるところしかないです。
フォアのミスはいただけなかったとしてもそのリカバリの仕方がそれを帳消しにしてお釣りがくる内容だったので、文句なし。
これからどんどん強い相手との試合が増え、負けることもあるでしょうが最新のテニスを体で覚えて自らをアップデートしていくのでしょう。この天才は。

準々決勝はノリーと。またもや強敵。しつこさとコントロールの良い攻めを兼ね備えた選手で、タイプとしてはハチャノフよりやりにくいかもしれませんが、今の調子を持続すれば期待できると思います。

19 件のコメント

  • 本当に、本気のハチャノフにガチンコ勝利❗️❗️💪(*^^*)♥
    めちゃくちゃカッコ良かったです❗️❗️❗️😍😍😍
    足が最後の最後まで、しっかり動いていたのも、嬉しいポイントでした♥
    そうなんですね、あえて“鼻血試合”には認定しないのですね😱 残念ですが、まだまだ上を目指す圭に相応しい選択かも知れませんね(*^^*)♥⤴️
    2025年が、思いっきり楽しみです❗️❗️❗️(*´艸`*)♥
    ああ、なんて幸せなお正月なんでしょうか❗️❗️❗️

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  • 超出遅れですが、ハチャノフ戦のハイライト動画を見た後、団長さんのレビューを拝見しました。
    ものすごい身体のキレがありますね。団長さんともども、改めてびっくりです。
    皆さんU-nextで見てられるのでしょうか。
    真剣に考えねば、です。

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  • 興奮する試合は時々ありましたが、今回は久しぶりにフォアのウイニングショットで何度雄叫びあげたか!っていう試合でした。楽しく鼻血さんのブログが読めるよう1年頑張って欲しいです^_^

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  • 何かのインタビューで、35歳だけど
    何年もろくに試合してないので実質30歳くらいです。
    と本人が言ってたけど過酷なツアー生活を考えると
    本当にそんな感じに体を延命?させられたんじゃないでしょうか?
    顔色など去年の秋口頃より全体的に若返った感じすらします。
    ジョコやマレーなどが30過ぎて子供も出来て
    その後の方が勝率が上がったという記事も読んだ気がします。
    これからの「数年」に期待してしまいます。

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  • 団長さん、感動のレビュー記事をありがとうございます。
    ハチャノフ戦、錦織選手が第2セット第3ゲームに見せた強打への意識、第4ゲームのブレバ以降の展開はもう、夢のようで……期待が高まり、かならず勝てると信じていました。SFMを取り切った時はただただ嬉しくてうれしくて、胸躍る感覚だけでしたが……

    団長さんの記事を読みながら思わず落涙。
    「錦織は答えを持っている」「期待を込めて、あえて鼻血試合にはしない」
    心にしみる言葉でした。
    試合直後にTennisTVの画面に出たスタッツを見たら、フォアハンドのウィナーは20本👏
    準々決勝以降も、全豪オープンも、楽しみでしかたありません。

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  • 明らかにフォアの強打を意識して打ってますよね。この試合と言うよりは、今シーズンを意識した戦いと感じました。本人もインタビューで言ってましたが、対シナー、アルカラスを意識していると思われますね。全豪で、彼らとあたるのを見てみたい‼️

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  • 団長さん、喜びを心の底に冷静で丁寧なレビューをありがとうございます。
    第1、第2セットともに最初に被ブレーク(第1セット終わりにも)、ミス多くプレーがチグハグでした。
    が、第2セットで初めてラブゲームキープした時、攻略法を完全に掴み取ってプレーの歯車がガシッと噛み合った感がありました。
    団長さんが「大型でパワーがあるけど一本調子になることもある選手に対し、錦織は答えを持っています。」とおっしゃっていた通りに。

    サーブも早くなり、リターンで食らいついて3球目ミスを誘ったり、FHのミスも減って鋭く深く入り、早い展開でショットのコースを読ませなかったり。
    ハチャノフもサーブやリターンの強打で対抗してきて、手に汗握る面白い試合になってきました。天才はこのヒリヒリする感じが大好物なのかも。
    気迫と技術が相手を上回って、このテニスなら負けるはずないよと思わせる、凄みあるプレーの連続。前を向いてタタタッと下がりながら打ったFHストレートウィナー、素晴らしかったなあ!
    ハチャノフを翻弄するシーンが何度もあって、躍動感のある洗練された美しいテニスだなあ!と今更ながらに感動!

    団長さんがこの試合をあえて鼻血試合に認定しなかった理由に納得です。これから強敵相手に勝ったり負けたりの試合が増える、それを見据えてのことですね。

    それにしても、普通なら落ち目になる年齢で驚異的に若い35歳、満身創痍であんなに長く休んでいたのに、どうやって甦ったのか⁈驚きと謎は深まってます。
    ま、天才だから常識を超えてくるのは当然か!

    団長さんがおっしゃるように、あとは年間通じて健康を維持し技術を磨きコンスタントに試合に出場できるかが試される、そんな1年になりそうですね。

    開幕戦2連勝、こいつぁ春から縁起がいいワイ!今日の準々決勝もノリー相手にノリノリでお願いします!

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  • 最後の光線のようなフォアが決まって、勝利の瞬間、少し立ち尽くして天を見上げていた錦織君の姿が印象的でした。
    作戦が見事にはまって真っ向勝負で勝った試合。

    ハチャノフとの試合はすべて見てきましたが、何となくいつも錦織君が勝つような気がしています。ハチャノフはいつも入りからエネルギー全開でサーブも強烈、ダウンザラインもバンバン決めて打てば入るみたいな感じなのに、いつの間にか錦織君に嵌められて動揺しいらいらし、ミスが出始めて最後は追い詰められてしまうんですよね。

    KENさんと同じく私も、これはシナー、アルカラスとの対戦を見据えて「強打フォア」を試しているんだなと思いました。
    第3セットに入った瞬間、これはもう錦織君の勝ち!と思ったものの、5-5で0-30になった時はさすがに手を握りしめましたけど。
    体の故障や痛みがないなら誰にだって勝てるんだという気がしてきた。
    こんな錦織君をもう一度見られて本当にうれしい。
    これが続きますように、続きますように。

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  • 錦織選手を抜く可能性があった3選手が消えました😱
    SF進出で83位or84位に浮上します。トップハーフはシード勢が全滅しましたし色々と妄想🐮🌳してしまいますねぇ~👿😁👹

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  • アテクシ👵の感想ですが、ヘルシンキCHの時に、Adサイドのセンターへのサービスリターン時(フォアハンド)に、「ブロックリターン?」と見えるシーンが多々ありましたが、ブロックリターンにしては威力が出ているし・・・(。´・ω・)?
    なんでかな~と思いましたが、ダイジェスト映像で見た場面で謎が解けたような気がしました。
    低いテイクバックから綺麗に面が出て来て、シッカリと前で、高い位置でボールを捉えていたのでブロックリターンに見えたのだと思いました。
    スイングの軌道に無駄がなくなり、スムーズに身体の前で捉えているので相手の威力も利用出来ているので大きな武器になっているかと思います。
    香港250の2Rでのカチャノフ選手戦は今後への大きな試金石になるかと見ていましたが、同じく低いテイクバックから強打を打てる相手に時には下がらされながらも、僅かな隙に踏み込んでフォアハンドの強打で仕留めるシーンが散見されて凄かった💪
    高速コート?みたいな情報もありましたし、カチャノフ選手に主導権を握られて圧倒される展開も予想してましたが、第2セットのブレイクダウンから挽回し、最後にはカチャノフ選手を弱気にさせてしまう攻撃力、展開力は本当に凄い💪
    ただ、綺麗に面が出ている=コースを読まれ易いリスクも伴います。粘りが信条のトップ選手達にどのような戦いを魅せてくれるのか楽しみです🎌😤🎌

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  • 下団さんのテイクバックの話が面白かったんですけど、「スイングの軌道に無駄がなくなり」とおっしゃっているところ、特に共感します。「FHで真っ向勝負するんだ」とインタビューで言っていて、練習でも実戦でも試していると思いますが、ただガムシャラにしばいているのではないのがよくわかります。
    打つ瞬間に体をクルッと素早く回転させその遠心力が腕に伝わって力みのない美しい、かつ鋭くて威力あるFHが打てているのかなと。
    素人の見方でうまく言えてもいませんが。
    体幹を鍛え体幹を巧く使って怪我しないように工夫していて、一石二鳥な感じもします。サーブにも活かされてるなら、一石三鳥ですかね?

    この技術を高めるためのトレーニングや練習は半端ないのでは?

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  • 言い忘れましたが、下団さんが「相手の威力も利用できている」とおっしゃっているところ、自分はリラックスした遠心力だけを使う脱力フォームで(それでも力んでるよりは威力は出ると思うけど)、相手の力を自分の力として取り込んで打ってるってことですかね。
    もしそうなら、なんだか日本の武道に通じる力の使い方じゃないですかね?

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  • 遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。m(__)m

    ハチャノフ選手との打ち合いが本当にすごかったです。
    たとえ決められても一歩も引かず、
    いつもの頭脳を使った技巧派というよりパワーに対してパワーで対抗する豪腕錦織選手に痺れました。
    別パターンの錦織劇場も見応えあって、どんなドラマよりも面白い。
    今日も楽しみです。

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  • 素晴らしい試合でした。

    打ち負けるどころか、さらに相手を上回る強打が決まってた。
    しかも、自分が力まなくても絶妙な身体の使い方でもって
    相手のパワーをうまく利用して打ち返す、という凄技。

    パワーテニスに対抗して自分も普通に強打しまくりでは
    怪我や故障のリスクが高くなる。年齢的なことを考えれば尚更。
    だから相手のパワーをうまく利用する。
    理にかなっていますね。

    団長さん曰く
    >最新のテニスを体で覚えて自らをアップデートしていくのでしょう。この天才は。>

    ほんと、そのとおりですね。
    錦織選手は最新のテニスにしっかり対応できていて
    頼もしい限りです。
    今年は楽しみでなりません。

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  • やっとお正月モードのバダバタがおわり、はいっ!テニス観戦モードに切り替わりました!
    チャレンジャーで錦織が負けたムナーはやはりしつこく、粘りに粘りムゼッティを破りました💦北京だったかで負けたシャンの試合を見ながら、錦織の試合を待っています( ¯﹀¯ )
    団長さん、レビュー記事をありがとうございます😊
    錦織劇場type2でしたねぇ、ホントに😱
    もちろん勝ちにいつてると思いますが、勝ちたいというより、先々のtop選手との戦いに備えていろいろ試しているように私も見えました。ブレイクされたゲームは、ことごとくあと少し!というショットだったから、修正するよねえとあんまり心配していませんでした。試合中に修正したり、作戦を変更したりできる錦織はホントに凄すぎます。
    今日はどんなプレーを見せてくれるかな?観客のみなさんが、ウォォォ!とかどよめくのが誇らしい(自分は何にもしてないくせに笑)

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  • 一つ前のコメントで
    ✖豪腕 → 〇豪打の です
    新年早々そそっかしいというかボケているというか、多分どっちも・・・。(^_^;)

    豪打は野球で使う言葉らしいですが、力強いという意味で使わせてもらいました。

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  • ウクレリアン さん、ベテラン選手になるにつれて速いコートが得意になる?みたいな定説を唱えるような記事、論調が過去にも多々ありましたが、それを証明するようなカチャノフ選手戦だったかと思います。
    ビッグ4+ワウリンカ選手、他にも4強時代でなかったら、1つや2つGSタイトルを獲得していてもよかった兵達が群雄割拠して時代を経験した錦織選手だからこその勝負勘、仕掛けるタイミングを逃さない凄みが素晴らしい・・・💎
    色々と妄想🐮🌳、想像してしまいますが、数多の激闘を繰り広げ、乗り越えてきた錦織選手だからこその説明不可能な経験が今の錦織選手を支えてくれているのかと思います🤔

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  • 前の試合が終わりました。
    シャンの逆転勝ち。強くなりましたよね。
    ノリーの次に待っているシャン、勝ちたい相手です。
    ノリー戦、がんばって👍

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。