ラケットの性能は確かに上がりました。
しかしそれは20年前と比較してのこと。最近10年間、様々なテクノロジーが発表されてきましたが、果たしてそれらは有効なものではあったか個人的には疑問に思っています。
良く言われることに、「ラケットが進化したので、サーブアンドボレーヤー(ネットプレイヤー)がいなくなった」というものがあります。
確かに一昔前と比べてプロのストローク力は格段に上がりました。ちょっと苦しいところからでもエースを取ることができますし、まるでピンポンのようにボールが行き交っています。
しかしそれは、ラケットの進化だけで説明できるでしょうか?少し考えてみたいと思います。
そもそも「ラケットの進化」とは何でしょうか?私には以下の3つしか思いつきません。他にあるでしょうか?
- 軽量化
- 反発力の向上
- コントロールの向上
他には「ストリングの進化」もあるでしょうが、ここではラケットのフレームについて論じます。
まず1の軽量化ですが、新素材の開発により、ラケットは軽量化が可能になりました。今では200gそこそこのラケットを使うことが可能です。
しかしながらプロはおろか、一般の上級者でもそんな軽いラケットを使っている人は皆無と言ってよいでしょう。それは、ボールを飛ばすためにはラケットの重量が必要だからです。
軽いラケットの主なメリットは、「スイングスピードを高めることができる」ことです。これはサーブのスピードには大きく影響するでしょう。
しかし、プロや力のある上級者はラケットが軽くなくてもスイングスピードを速くすることができます。逆に同じスイングスピードなら重いラケットの方が面が安定します。
軽量化については、もうこれ以上はあまり意味がないところまで行っていると言ってよいでしょう。
次に2の反発力の向上ですが、これは確かにあります。
しかしその量は大きくないと思います。
ストリングを張ったラケットの上に100cmの高さからボールを落とすと、約85cmの高さまで跳ね返ります。
つまりエネルギーロスはわずか15%ということになります。
その15%をいかに0に近づけるか、というのが「反発力の向上」となるわけです。おそらく、1%上げるだけでも相当な工夫が必要になると思います。
ラケットの宣伝文句で「反発力が15%向上!」といったものを見たことがありますが、定義があいまいで何を指しているのかよくわかりません。
ボールやスイングのスピードによっても変わってきますし。
物理的にエネルギーロスは絶対に0にすることができません。
ボールとラケットの運動エネルギーはインパクト時、摩擦、振動、音、熱などに変換されてエネルギーロスとなります。
パワーが2倍や3倍になるようなラケットができるわけがなく、ニューモデルはわずかな「パワー」の差を必死に求めていると言ってよいでしょう。
最後にコントロールの向上についてですが、そもそも「ラケットのコントロール」とはなんでしょうか?
考えてみると意外と難しいのではないでしょうか。
コントロールとは「狙った所に飛ぶかどうか」のことですが、打った人の狙った所を、ラケットが知っているはずもありません。
「良いコントロールを持ったラケット」を使っていても明後日の方向に向かって打てば、ボールはやはり明後日の方向に飛んでいきます。
私が思う「ラケットのコントロール」とは、以下のようなものです。
地面に水平に固定されたラケットのストリング面中心に対し、鉛直方向からボールを落下させたとき、跳ね返るボールの角度のばらつき
・・・難しい表現をして申し訳ありません。要するに、地面に置いたラケットに真上からボールを落とした時、跳ね返ってくるボールの角度は何度?
ということでして、一番よいのは「真上から落として真上に跳ね返ってくる」こと(これを「90度」ということにします)ですが、時には89度だったり、91度だったりすることもあるでしょう。
仮に跳ね返り角度が89~91度に収まっているとすれば、このラケットのコントロールは「2度」と定義することが可能です。
この角度幅が小さければ小さいほど、「コントロールの良いラケット」と呼べると思います。
この跳ね返り角度は別に90度前後である必要はなくて、例えば80度だったとしても(そんなラケットあったらすごいですが)、「常に80度」だとしたら、それはそれで「コントロールが良い」と呼べます。つまり、
いつも同じ角度で跳ね返ってくれること
これがコントロールの良いラケットの条件であると言えると考えます。
これはご家庭でも簡単に実験できるので、床に置いたラケットに対してボールを落としてみてください。
おそらく、どのラケットもちゃんとまっすぐ跳ね返してくれ、目測ではばらつきを計測することは難しいのではないでしょうか。
跳ね返りのばらつき以前に、ボールをちゃんとストリング中心に落とすことが難しいと思います。
こう考えていくと、異なるラケットの「コントロール性能の違い」って何だろう?ひょっとしてごくわずかなんじゃないのか?
と思えてきませんか。「このラケット、コントロールが悪い」と言うとき、それはほとんどが、自分のテニスとの相性の悪さによるのではないかと思っています。
このへんのデータが数値的に示されて入れば検討のしようもあるのですが、残念ながらラケットメーカからは公開されていません。おそらく、昔のラケットと比べても大きくは違わないのではないかと思っています。極めて感覚的、主観的な宣伝文句が並ぶ商品パンフレットなどを読むことは参考になるどころか、誤った判断を導く原因になるとすら思っています。ストリングについても同様の現象が見られます。(メーカーさんすいません。正直な感想です。)
以上のように考えていくと、「ラケットの進化」とは、やはりウッドからグラファイトへ変わる過程のことを指すと考えるのが妥当だと思えてきます。この過程では確かに軽量化が進み、反発力もかなり上がったと思います。
それ以降は、多少の「進化」はあったと思いますが、ウッドからグラファイトへの移行と比べると小さなものだと思います。
そして技術の進化にはタイムラグが避けられません。
グラファイト製のラケットが使用されるようになったからと言って即、それに合ったスイング、技術が使われるようになるとは限りません。
グラファイトのラケットで育った選手が成長するのを待つ必要があります。15年くらいはかかるのではないでしょうか。
80年代にグラファイトのラケットが普及して、グラファイトのラケットで育ったプレイヤーが台頭してくる90年代後半ごろからサーブアンドボレーヤーが苦しくなってきました。時期的にも一致します。
ネットプレイヤー激減の背景には、ラケットの進化とそれに伴う技術の進化があった、しかしラケットの進化は近年のテクノロジーレースによるものではなく、ウッドからグラファイトへの進化によるものである、と結論付けたいと思います。
*以上の主張は、ラケットに関する不明なデータが示されれば多少変わる余地があります。
鼻血さんのおっしゃる通りラケットの技術的な理由もあると思いますが、
やっぱり一番大きいのは世界のトップ選手にサーブアンドボレーヤーが
いないからなんじゃないかと思います。
以前片手バックハンドについて書かれてた時はそういう内容だった
ような記憶がありますが、流行もあるだろうし、
現在トップ選手に片手バックがフェデラーぐらいしかいないにも
関わらずに男性一般プレイヤー(といっても私の周りレベルですが)に
異常に片手が多いのはやはりそれで強くてカッコいいから・・・。
・・・と書いておきつつ、鼻血さんの言う「激減」がプロの世界の
話なのか一般レベルの話なのかよく分かりませんが(笑)
sabumasa引用 返信
サンプラス以降サーブ&ボレースタイルが激減したのはラケットの進化だと思いこんでいましたが、ここ10年~15年でそんなに劇的に性能が向上したのか?と疑問にも思っていましたのでタイムラグとは目から鱗。
ラケットの進化と技術論の進化によりジュニアの頃からストローク力が上回っており、サーブ&ボレーが育つ土壌ではないのかな。
匿名引用 返信
↑名前入れ忘れました。
falstelo引用 返信
錦織選手、やはりブログの面白さに目覚めたらしく(応援してくれるファンへの気遣いもあるでしょうが)新しい記事がアップされています。
デルレイビーチの時と比べて痛みもだいぶ消えてきたとあって、文面が明るくなってきたのが嬉しいですね。
みけ引用 返信
こんにちは。
ラケットの進化という点ではコントロールの部分に分類されますが、特にラケット面が大きくなったことは関係ないでしょうか。
ウッドからグラファイトになった時にラケット面が広くなる
→より速いスイングスピードで打ち込める
→このストロークが、面が広がったことによるボレーの安定性を上回ったのでは?
なんて考えてみました。
以前にあったムーンボールはプロではすっかり過去のものですしね。
テニスの考察もとても興味深いので面白く読ませてもらってます(^^)
ジャン引用 返信
はじめまして。いつも見させていただいてます。
ラケットの進化でリターンがより簡単になったというのはないんでしょうか。どうなんでしょうか。
すいません素人考えで。
サーブ&ヴォレーのメリットがなくなったのか、流行ってない(トッププレーヤーがあまりやらない)のかどうなんでしょうね。
akira引用 返信
ちょっとずつ返事しますね。
akiraさん
コメントありがとうございます。
ラケットが軽くなるとラケットさばきが速くなるし、反発力が増す(つまりフレームが硬くなる)と当てるだけでもある程度飛びますから、関係はあると思います。
が、私はボールを飛ばなくした影響の方が大きいのではないかと思っています。
そして技術の進歩です。
テニスというのは面白く、新しい技術、ショットができるとそれに対抗する技術も発達していきます。
昔のビデオを見ると現在はストロークのボールスピードが飛躍的に上がったことが分かります。
昔よりサーブアンドボレーの優位性が薄れたということだと思います。
ジャンさん
ラケット面が大きくなると、重量がラケットの中心軸から遠いところに配分されることになりますので、面安定性が増します。
言いかえると、真ん中を外して当てたときに、ラケットが中心軸周りに回転しづらくなります。
中心軸とは、グリップとヘッドを結ぶ線のことです。
そういう意味で面が大きくなることによりオフセンター時のコントロール性能は増したと言えるでしょう。
一方で面が大きくなることにより、ラケットの取り回しはしにくくなりますし、オフセンター時のストリングのたわみの「非対称性」も、面が大きくなることにより増えますので、トータルで見ると一概には言えないのではないかな?と思っています。
やっぱりコントロールについて物理的観点のみから論じるのは難しく、バイオメカニクスの面からも考察が必要だと感じています。
falsteloさん
技術や道具の変化によりボレーヤーの優位性が小さくなり、ボレーをする人が減り、減ることによって育ちにくくなる、という悪循環(ボレーヤーに取って)になっていると思います。
が、プレーヤーは勝つためにやっているのであって、個人的にはボレーヤーが少ないことをさびしく思いますが、勝つためのスタイルとして適していなければ滅びるのは仕方ないことだと思います。
全部ネットに出るようなプレイスタイルはきつくなってきていますが、要所で相手が予測してないところにドカンとサーブを打ってネットに詰めるような戦略は、むしろストローカーにとっても重要性が増して生きているように思います。
今後はますますフェデラーに代表されるような、オールラウンドなプレーが重視されていくのだと思います。
最強ストローカーだったアガシやレンドルはお世辞にもボレーがうまかったとは言えませんし、エドバーグもフォアに不安定を残し、サンプラスもあの強烈フォアと比較すればバックが弱かった。
今のトップ選手はほとんどがストローク中心とは言え、持っている技術としてはかなりオールラウンドになってきてますよね。
netdash引用 返信
ジャンさんの指摘を読み、「ラケット面が広くなること」はラケットの進化にとって大きいのではないかと思いました。根拠はうまく説明できませんが。
今は子供のラケットでさえ、面積はかなり大きいです。大きければ、子供にとってはとりまわしづらいだろうに(シャフト+グリップは短いが)。テニス技術が未熟だから、大きいラケットが必要、ということもありますけれど。
むかし、両親が揃っておそろいのプリンスの「デカラケ」を買ってきた時、「何これ?木じゃない!なんて大きいの!!」と驚いたことを思い出します。
まとまらないコメントでした…
Nosa引用 返信
ウッドからグラファイトへの変化のタイムラグ。素晴らしい解答だと思います。
サーブ&ボレーヤーの激減に関しては、個人的にはリターンがしやすくなったのも勿論有りますが、サーブ力の向上にある気がします。
現在の男子プロに至っては、200キロサーブがあまり珍しいものではない時代になってきて、サーブから直接ボレーに行く必要が無くなった気がします。
…表現が難しいですね。
『サービスライン付近に到達する前にリターンが返って来てしまう』と言うのが正しいでしょうか。ダブルスを見てて凄く感じます。
ネットから遠い程守る範囲は広くなるわけで…。
というわけで、サーブ&ボレーは減っているのではないでしょうか?
ただ、ネットプレーに関して言えば、
『出来れば(有利な状態で出れるなら)出たい』
というのが気持ちじゃないでしょうか。
攻撃に関して言えば、スピードは必ず求められるはずです。
スピードは
ボールスピード
と
テンポ
に分けられると思います。
ボールスピードには限界があるので、残るはテンポになります。テンポが最も早いのはボレーですから、相手にとって最も守りにくいということが言えると思います。
そんな訳でボレーをするというのは、トップに登りつめるには必要な技術な気がします。
どうでしょう?
おーちゃ引用 返信
ウッドからグラファイトへの変化のタイムラグ。素晴らしい解答だと思います。
サーブ&ボレーヤーの激減に関しては、個人的にはリターンがしやすくなったのも勿論有りますが、サーブ力の向上にある気がします。
現在の男子プロに至っては、200キロサーブがあまり珍しいものではない時代になってきて、サーブから直接ボレーに行く必要が無くなった気がします。
…表現が難しいですね。
『サービスライン付近に到達する前にリターンが返って来てしまう』と言うのが正しいでしょうか。ダブルスを見てて凄く感じます。
ネットから遠い程守る範囲は広くなるわけで…。
というわけで、サーブ&ボレーは減っているのではないでしょうか?
ただ、ネットプレーに関して言えば、
『出来れば(有利な状態で出れるなら)出たい』
というのが気持ちじゃないでしょうか。
るはずです。
スピードは
ボールスピード
と
テンポ
に分けられると思います。
ボールスピードには限界があるので、残るはテンポになります。テンポが最も早いのはボレーですから、相手にとって最も守りにくいということが言えると思います。
そんな訳でボレーをする必要性はあると思います。
どうでしょう?
おーちゃ引用 返信
すいません、間違って二通送ってしまいましたm(_ _)m
おーちゃ引用 返信
サーブ&ボレーから離れますが、タイムラグに関して。
アラフォー世代の小学生の頃はまだまだウッド全盛期でその頃はしっかり踏み込んで打つことを習いました。
また、フラットとスライスのみの時代が少し前に終わりドライブというスピンがかかったショット(ボルグなど)全盛期でありましたので、弧を描くようなテイクバックでストロークを打っていた人も多かったと思います。(伊達さんもこの時代育ちですが、彼女は独特でこれにあてはまらない)
’90年代に入るとテイクバックを小さめであまり踏み込まない打ち方が推奨されていたようです。これがグラファイトへ移行後技術が確立された頃(10~15年のタイムラグ)なのではないかと思います。現在の現役選手はこの世代ですね。
「タイムラグ」でそういうことか!と思いついたことをつらつらと書いてみました。
あと、オールラウンドになってきているには同意します。
falstelo引用 返信
ラケットより、大会運営サイドがラリーを多くするためにコートサーフェスを遅くして、ボールも代えたことの影響の方がずっと大きい。
mr.j引用 返信
なんか意外にもりあがったなこの記事w
mr.jさん
そう思います。
記事中では強調しませんでしたが。
コメント中に書きました。
おーちゃさん
確かに、それありますね。
サーブアンドボレーからサーブアンドアプローチあるいはサーブアンド打ちこみというか、その方が楽な場合が増えましたね。
falsteloさん
確かにテイクバックが小さくなってきたのは90年代。修造さんもスピード化に対応するために大きなテイクバックから小さなテイクバックに変えました。
netdash引用 返信
いつも興味深く読ましてもらっています。
錦織選手があまり試合に出られない現在、このブログが今なお頻繁に更新されていることに敬意を表します。
作者の努力とモチベーションの継続に感謝します。
今回のラケットの話は参考になったし、同感しました。
私もまさにそのとおりだとおもいます。
今後もご活躍を願ってます。
庭球詩人^^引用 返信
来週からのバトン・ルージュCHのメインドローがアップされ
ました。
http://www.atpworldtour.com/posting/2010/3810/mds.pdf
一回戦の相手は米国のBrendan Evans(24才)で、なかなかの
イケメン選手(下記アドレス参照)です。
http://www.atpworldtour.com/Tennis/Players/Ev/B/Brendan-Evans.aspx
昨年の10月に過去最高の117位をマークしています。
これから、戦歴他についても調べてみます。
コリコリ引用 返信
先ほどのBrendan Evans選手に関する続報です。
・昨年の戦績を見る限り、グラスのような速いサーフェースを
得意としている。(身長も188cmあり、サーブ速そう)
・年初に137位だったランキングを、現在では218位まで落として
いる。
・今年は既にCH本戦とグランプリ(GS含む)予選に計11大会出場
しているが、勝ったのは1月のドイツのCH(インドアハード)
での1回だけ。
今年の戦績を見る限りでは、鈴木貴男選手の方が強そうです。
コリコリ引用 返信
コリコリさんありがとうございます。
明日の記事に使わせてもらいます。
庭球詩人さん
励みになるコメントありがとうございます。
ブログ毎日更新は、なんというか意地みたいなものですw
錦織が休んでいるからってブログも休んだら、意味ないだろうと思いまして。
これからもよろしくお願いします。
netdash引用 返信
自分は、ラケットの軽量化とコントロール性能の向上だと考える立場です。
昔は石のように重いラケット脱出ので、しっかりとバックスイングして加速させてボールにぶつけるドライブ打法が理にかなっていました。ボルグやビラスやレンドルのトップスピンも大きなバックスイングから生み出されてました。逆に軽いラケットはいろいろな面で性能が低く、女性か子供が使うものでした。私もできるだけ重くしてました。
90年代になって、ボールへの衝撃は重さではなくスイングスビードに左右されることが立証されると、ラケットとも野球のバットも軽量化が進みました。
これで大きく変わったのはリターンでしょう。
ラケットが重い時代はどうしても振り遅れるので高速サーブにはなすすべもなくボレーの餌食になってましたが、ラケットの軽量化とコントロール性能の向上で苦しい態勢からでもボレーヤーの足元をえぐるリターンが打てるようになりました。そうすると高速サーブでネットにつめることが有利ではなくなり、リスクを犯すよりはステイバックするようになるのも当然ですね。
ちなみに、ラケットの軽量化でスイングフォームの基本も大きくかわりましたよね。今のスイングなんて、昔の軟式庭球のような体に巻き付くように振ってスイングスピードを出すフォームですよね。
ただ、ひとつ言えるのは、昔のようなフォームであれ、今のフォームであれ、都道府県大会のレベルではあまり差はないですよね。
まっつ引用 返信